第2章

 

階段を下りると、目の前の扉が閉まっていた。しかも扉は重そうだ。この手の物は僕等では如何しようもない。


「扉閉まってるね」


「いや、問題ない」とガガは、手招きをして扉の前の端っこに僕を誘導した。


「ここで人間が開けんのを待つのさ」


「どの位待つの?」とガガに向かって、首を傾げて聞いた。


「早ければスグ開くが遅ければ……その時は諦める」


「そんなんで良いんですか?」


「そんなんで良いんです」とガガは、頷いて言い返した。


「オッ」と、トトが扉に向かって呟いた。


そんな中、ゴ~っと思い扉が開いた、と言うより、人間が扉を開けた。


「ほら早く、早く通んねぇと扉閉まっちまうぞ」


ガガは、咄嗟に閉じかけの扉を抜けた。トトも素早く抜けて行った。


「え?」と僕は一言吐き、動揺して間を開けながらもガガの後ろを追った。しかし、扉は閉まる三歩手前だ。「ああ、もうダメだ」と僕は、内心諦めた。その時、トトが閉じかけの扉から飛び出してきて、頭で僕を押してくれたのだ。


……なんとか扉を通る事ができた。


「あ、危なかったぁ……」と僕は、安心の一言を口から洩らし、「トト、ありがとう」と、後ろに振り返った。


トトは扉に挟まっていた!


柔らかい腹部を扉に潰される勢いだ。トトは僕等に痛み苦しむ表情を晒した。


「トト!」


僕はトトを助けたい一身で、口で耳を引っ張った。ガガも続いて、片方の耳を引っ張った。


「ヤメロ! イテェッ!」


トトは痛みのせいか歪んだ声を僕等に向けた。


ガガは耳を離して扉を引いた。しかし、猫の力ではビクともしない。「イキがクルシイィ……」と、口を膨らませて悶えるトトを見て僕は「マズイ……」と感じ取り、さらに耳を引っ張った。


「だからヤメロって!」


「如何するの!?」と僕は、噛むのを止めてガガに叫んだ。


「知るかよ! 押せ!」


ガガは力を込めながらも怒鳴った。


その時だった。扉が引いて開いたのだ。トトは咄嗟に扉から離れ、蹲った。僕は扉を見上げた。


人間が扉のノブを握っていた。


人間が扉を引いてくれたのだ。トトは人間に助けられたのだ。人間はそのまま僕等の前を横切って、去って行った。


その後ろ姿は、風で長くて茶色い髪が靡いていた。


「おー、大丈夫か?」とトトに近づき、「危なかったな」と安堵の笑みを見せた。


「あぁぁ、何とかな」


トトは四本の手足で起き上がった。


「人間に感謝しないとね」


僕はトトにそう吐いた。


「いや、偶々だ。偶々人間が通りかかっただけだ。感謝するほどの事じゃねぇ」


「そうかなぁ? 命助けてもらったのに」と首を傾げた。


「口答えするな! あいつ等は俺達の事なんざ『どうでもいいいい』と思ってやがる」


トトは唐突に声を荒げた。なぜそんなに怒るか不思議に思う。


「ダンナ、落ち着けよ」と、ガガが横から宥めた。「落ち着いてるわ」と、トトは呟く。落ち着いているはずないのに。


「いや、けどよ、ようやく入れたから良かったじゃねーか。普段はこんな事態起こらないけどよ。運が良かったかもな」

 

 

つづく